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兵庫県姫路市でマッチを製造する日東社が、工場内の空きスペースを活用し、無農薬野菜を育てる植物工場を始めました。LED照明の下でケールやルッコラ、ピノグリーンなど約20種類を試験栽培し、10月にも販売を始める予定です。マッチ需要の低迷を受けた新たな収益源づくりであり、天候に左右されにくい供給と、長年培った品質管理の応用を目指しています。試験栽培した野菜はホテルや飲食店の料理人から味や食感について評価を得ており、今後は生産の安定性と販路の確保が事業化の鍵となりそうです。

引用元: 兵庫の老舗マッチメーカー日東社、工場空きスペースを植物工場に転用し野菜事業へ参入(Asahi Shimbun)

分析・見解

空き工場の転用が初期投資を抑える

日東社の取り組みで重要なのは、植物工場を新設するのではなく、既存工場の使われていない場所から始める点だ。需要が縮小する主力事業を抱える企業にとって、新規事業の設備投資を抑えられることは、撤退や縮小を迫られる前に試す余地を広げる。建物や電源などをどこまで共用できるかは確認が必要だが、ゼロから施設を整える場合と比べ、事業の採算性を早く確かめられる可能性がある。

一方で、空きスペースがそのまま栽培に適するとは限らない。温度や湿度、清潔さ、作業動線を整える改修が必要になる。既存の製造工程と野菜の栽培を同じ建物で行うなら、資材や人の移動による異物混入も防がなくてはならない。建物の有効活用と衛生管理を両立できる設計が、転用の成否を左右する。

品質管理の経験は栽培のばらつきを減らす

マッチ製造で培った品質管理の考え方は、植物工場にも生かしやすい。光の強さや照射時間、温度、養液(植物に与える水と肥料)の状態を記録し、収穫物の重さや形と結び付ければ、品質のばらつきを減らす手掛かりになる。担当者の経験だけに頼らず、条件と結果を記録して次の栽培に反映することが重要だ。

ただし、製造品と農産物では品質の性質が異なる。野菜は品種や生育段階で味、食感、収穫時期が変わり、料理人が求める特徴も用途によって違う。約20種類を扱うことは提案の幅を広げる一方、品種ごとに栽培や収穫の手間が増える。まず売れ筋と評価の高い品種を見極め、商品数を段階的に調整する方が、安定生産につながる。

販売先の評価を栽培条件へ戻せるか

ホテルや飲食店の料理人から味や食感の評価を得たことは、単なる試食以上の意味を持つ。葉の大きさや苦み、香り、収穫後の持ちのどれが料理に役立つのかを聞けば、販売先の要望を栽培条件に反映できる。一般消費者向けに広く売る前に、用途が明確な業務用市場で商品を磨く進め方は、価格だけの競争を避けるうえでも理にかなう。

植物工場野菜は天候の影響を抑えられるが、需要まで自動的に生まれるわけではない。店舗は品質だけでなく、必要な量を必要な日に受け取れるかを重視する。少量でも納期を守り、欠品や過剰生産を減らせる仕組みが整えば、料理人との継続取引に発展しやすい。評価を聞く場を販売後も設け、品目や出荷規格を見直すことが鍵となる。

電力費と稼働率が事業継続を決める

植物工場は天候に左右されにくい反面、LED照明や空調を動かす電力が継続的にかかる。したがって、販売単価や収穫量だけで採算を判断するのでは不十分だ。照明と空調を含む電気代、種や肥料、包装、配送、人件費まで品目別に記録し、実際に売れた量を基準に利益を確かめる必要がある。栽培棚を埋めることより、注文に合わせて無駄なく稼働させることが大切だ。

日東社の挑戦は、植物工場を大規模な新産業としてではなく、既存企業が持つ建物、人材、管理力を別の需要に結び付ける方法として示している。成功の目安は栽培できた種類の多さではない。品質、出荷の安定、継続購入、電力費を含む採算がそろうかどうかだ。小規模な試験から顧客の注文に合わせて規模を広げる姿勢が、他業種の参入にも参考になる。

ビジネスへの影響

設備を増やす前に顧客の注文を確かめる

参入を検討する企業は、まず設備の規模ではなく、誰が何をどの頻度で買うのかを確かめたい。日東社のように飲食店やホテルへ試作品を持ち込み、味や食感だけでなく、必要な量、納品日、包装、希望価格まで聞く。口頭での好評と継続購入は別物だ。定期注文や試験販売の合意を得てから、生産量や品種を決めると、売れない在庫を抱える危険を減らせる。

品目数を広げることにも慎重さがいる。約20種類を試す段階では選択肢の広さを評価できるが、商業生産では品種ごとに種まき、栽培期間、収穫、包装の手順が異なる。初期は注文が見込める数品目に絞り、収穫量と作業時間を記録する。売上だけでなく、品目ごとの粗利益(販売額から直接かかる費用を引いた額)を比較すれば、残す品種を判断しやすい。

既存工場の共用費と電力を個別に測る

空きスペースの利用は建物の費用を抑える一方、電源の増設、断熱、給排水、衛生区画などの改修費が発生する場合がある。植物工場に使う電気や水道を製造部門と分けて計測し、野菜事業の実費を見えるようにしたい。共用部分の費用を曖昧にすると、事業単体の採算が実際より良く見える恐れがある。立ち上げ前に改修費と毎月の運転費を分けて見積もることが、投資判断の基本となる。

また、品質管理の記録は営業資料にもなる。栽培日、収穫日、保管方法をそろえて記録すれば、取引先へ供給の安定性を説明でき、品質に問題が出た場合も原因をたどりやすい。小さく始めて販売実績と栽培記録を積み上げ、注文の増加に応じて設備を広げる。既存事業の縮小分を新規事業で早急に埋めようとせず、赤字の許容期間と撤退判断の基準を先に決めることも、経営上の備えになる。

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