Plant Factory Insight
ハイブリッド植物工場が示す、天候リスクと電気代の折り合い
豊橋技科大の高山教授らが実証する「ハイブリッド植物工場」は、太陽光と人工光を組み合わせ日照不足や酷暑でも収量を安定させる試み。省エネと安定供給を両立できるのか、技術面と事業面から読み解きます。
ニュースの概要
豊橋技術科学大学の高山教授らの研究グループが、日照不足と酷暑の両方に対応できる新しい植物工場の実証実験を進めていると、東愛知新聞が報じた。太陽光をおもに使う温室型と、LEDなど人工の光だけで育てる完全閉鎖型の中間に位置づけられる仕組みで、天気の悪い日は人工光で補い、猛暑の日は温度を抑えて作物へのダメージを減らす。近年の異常気象で野菜の収量や品質が揺れやすくなるなか、農家や食品企業が求める「計画どおりに出荷できる生産」へ一歩近づけるかが焦点になる。
引用元: 日照不足や酷暑対策も両立 新開発「ハイブリッド植物工場」で作物収量安定へ 豊橋技科大の高山教授ら実証実験(東愛知新聞)
分析・見解
温室と閉鎖型の弱点を互いに補う発想
植物工場には大きく二つの型がある。一つは太陽光を使う温室型で、電気代は安いが天気に左右される。もう一つは人工光だけで育てる閉鎖型で、収量は安定するが照明と空調の電気代が重くのしかかる。今回のハイブリッド方式は、この二つの弱点を打ち消し合わせようとするものだ。晴れた日は太陽光を主役にして電気を節約し、曇りや雨の日はLEDで足りない光を足す。夏の猛暑日には遮光や冷却を強めて、葉が傷む温度を避ける。
ここで大事なのは、全部を人工光に頼らない点だ。照明は植物工場の電気代のおよそ3割から4割を占めるとされ、閉鎖型のリーフレタスでは1株あたりのコストが露地物の数倍になることもある。太陽光を使える時間帯だけでも使えば、その差はかなり縮まる。
日照不足と酷暑は、同じ施設で別々に起きる
実は、日照不足と猛暑は正反対の問題に見える。光が足りない日は照明を増やし、暑すぎる日は光や熱を減らす。つまり、制御の向きが逆になる。一つの施設で両方に対処するには、天気予報、室温、光の量、作物の状態を見ながら、その場その場で最適な組み合わせを選ぶ仕組みが欠かせない。
ここに、この研究の本当の難しさがある。装置そのものよりも、状況に応じて光と温度を切り替える運転の腕前が成果を左右する。人手の経験に頼っていた判断をデータで置き換えられれば、熟練者がいない地域でも同じ品質を出しやすくなる。
実証で見るべきは収量より、ばらつきの小ささ
実証実験の成果を見るとき、つい「何割増えたか」に目が行く。しかし事業として重要なのは平均収量よりも、年間を通じた収量のばらつきの小ささだ。スーパーや外食チェーンは、ある週に大量に出て翌週にゼロになる野菜より、毎週ほぼ同じ量が届く野菜を高く評価する。契約栽培の価格が露地相場より高く設定できるのは、この安定性に対価が払われるからだ。
2023年の猛暑では、レタスやほうれん草の卸売価格が平年の1.5倍以上に跳ね上がった時期があった。こうした局面で供給を維持できる生産者は、価格が高いときに出荷できる強みを持つ。ハイブリッド方式が狙うのは、まさにこの部分である。
電気代が下がっても、導入費の壁は残る
ただし課題もある。太陽光を取り込む構造と人工光の設備を両方備えるため、初期投資は温室単体より重くなりやすい。電気代が下がっても、設備費の回収に何年かかるかで採算は大きく変わる。過去には、閉鎖型の大型工場が電気代の高騰と販売先の不足で撤退した例が国内で相次いだ。今回の方式が同じ道をたどらないためには、作る作物を絞り、高く売れる販路を先に確保することが不可欠だ。技術の優劣より、売り先を決めてから設計する順番が成否を分けるだろう。
ビジネスへの影響
農業法人と食品企業が今すぐ確認できること
自社で生産に関わる企業は、まず過去数年の天候による欠品や価格変動の損失額を洗い出したい。損失が年間の利益に対して無視できない規模なら、気象リスクを減らす投資の価値が見えてくる。次に、現在の温室や工場の照明、空調、遮光のどこに無駄があるかを計測する。ハイブリッド型を丸ごと導入せずとも、補光LEDの追加や自動遮光カーテンといった部分的な改良だけで、収量のぶれが小さくなる場合は多い。
買う側にとっての調達戦略の変わり方
外食や小売の調達担当にとっては、産地を分散するだけでなく、生産方式を分散するという選択肢が現実味を帯びる。露地、温室、ハイブリッド型を組み合わせれば、天候が荒れた年でも全体の欠品を抑えやすい。契約のときは、価格だけでなく「週ごとの納品量の許容幅」を条件に入れると、安定供給に投資した生産者を正しく評価できる。
事業化の前に見ておきたい三つの数字
新しい方式を検討する際は、次の三つを確認したい。一つ目は1キログラムあたりの電気代、二つ目は設備費の回収年数、三つ目は猛暑の月でも維持できる実際の収量だ。実証データが公開されたら、平均値ではなく最も条件が悪かった月の数字を見る。そこが事業計画を支える下限になる。大学の研究と連携すれば、補助金や共同研究の枠を使って初期負担を軽くできる可能性もある。